そのレコーディングのオファーがあったのは、2020年の9月4日の事であった。
かねてよりTwitter上で付き合いのあった、指揮者の鈴木智士(通称:ジャンニ)さんからの依頼。
その内容を見て、私は小躍りせんばかりに喜んだ。
何故って、ずっと歌ってみたかった「クソ合唱曲」であったから。
「クソ合唱曲」とは、Twitter上で展開された合唱作品群の事で、私が初めてそれを知ったのは、Twitter上で森雄太さんの『推しが尊い』を見た時。
それから、その優れた「クソさ加減」にすっかり魅せられてしまい、いつか歌ってみたいと熱望する様になった。
ついには、森さんにお願いして『はたらきたくない』を「バス独唱とピアノのための無伴奏演奏会用アリア」に編曲してもらい、リサイタルで披露したのは御記憶に新しいだろう。
そして、ついに!
合唱のバスパートとして、正式に「クソ合唱曲」を歌う時が来たのだ。
曲は、ながはなさん作曲の『合唱曲集-よくばり満腹セット』である。
早速楽譜をダウンロードし、ざっと譜読みをしてみて、改めてその技巧の確かさ、着想の斬新さ、何より「クソ合唱曲」への限りない愛を感じて感激してしまった。
相対音感の私には、中々難しい部分もあったが、何としても歌いたいという気持ちが、譜読みに拍車をかけてくれた。
そうこうしているうちに、レコーディングの日がやって来た。
メンバーは、指揮の鈴木さんをはじめ、Twitterでは旧知だがリアルでは初めてのSoprano:小林 美央さん、そしてAlto:古志 祐華さん、Tenor:吉田 純也さん、それに私の中では「眠るピアニスト」である泉翔子さんのピアノ。
それにレコーディングエンジニアのちゃんゆうさん、ながはなさんの助手ダギさん。
鈴木さん、吉田さんは国立音楽大学の後輩、メンズが全員国音出身という奇遇な座組みとなった。
これまたTwitterでは旧知だがリアルでは初めてお会いする、ながはなさんはどうやら関西の方、大阪の実家(私の父親が大阪人)の親戚にかなり似ておられてビックリした。
出版元のYOTTA工房、田中亮さんは想像よりもずっとお若くて、これからのクソ合唱界をこういう方々が担っているのだと思うと、あと30年若かったらと思う。
そうしたら、もっと早く仲間になれただろう。
お互い挨拶を済ませて、二日間に渡るレコーディングが始まった。
いやぁもう楽しいの何の!
笑いを堪えるのが必至な曲も!
それでいてバス冥利に尽きる戦慄…いや旋律も!
実はこれまでに、あまりにも色々な仕事をやり過ぎてしまって、レコーディングの仕事を暫く封印していたのだが、その封印を解いても余りある作品である事は、歌っていて益々確信として心に刻み込まれた。
いよいよアカペラの二曲が残った時、私は何かを作者に贈りたくなった。
そして、ご許可を頂いてLow-D、Low-Cを出した…あ、楽譜は一オクターヴ上です、ご心配なく。
私からのささやかな贈り物、喜んで頂けた様でとても嬉しい。
歌い終わって思った。
「世の中の声楽家たち、知らないと損をするよ」
…いやいや、あまり皆んなが歌う様になると、私の出番がなくなってしまう(笑)。
本当に関われて良かった。
この場をお借りして、オファーをくださった方々、共演してくださった方々、現場の方々に心より御礼申し上げたい。
心に沁みる仕事をさせてくれて有難う。
え?またオファーがあったらやるかって?
勿論やるとも!
第九のソリストのオファーを蹴ってもね!

